灰釉ができるまで

灰釉 info灰釉と自然釉
灰釉ができるまで

●灰釉●

焼き物を彩り、堅牢にしてくれる釉薬。 その釉薬を、草來舎では地元の草木の灰から仕立てています。

昔ながらの技法で、灰と長石や土だけを合わせ、人工物は一切加えません。

木灰から作った釉薬は、木によって持っている成分が違うので、草木染が植物の種類によって色が違うように、灰を釉薬にした時も木の種類によって発色が違います。 灰釉 上の写真は、左が松灰釉、右上が林檎灰釉、右下が藁灰釉の鉢です。 草木は燃やして灰にするほんの少しになってしまうので、大量に手に入るものでないと釉薬にはなりません。 草來舎が釉薬に使う草木は、剪定した林檎の木、脱穀が終わった田んぼの藁、徐間伐した赤松や楢など。 どれも里山の暮らしの中で無理なく得られるものばかりです。 blog in haiyu 36 燃やした灰を釉に仕立てるためには、まずは水をはった大きなバケツに入れて水簸(すいひ・水洗い)をし、アクやゴミ、不純物を取り除きます。 水に溶け出たアクが、バケツの水の表面に氷のような結晶になります。アクがしっかり抜けるまで、日に幾度も水を変えながら攪拌し、灰を沈殿させるのを繰り返します。 この水簸に一ヶ月以上も掛かることもあります。 アク抜きが十分でないと釉薬の濁りや縮れの原因となり、釉薬の融けも不安定になります。 しかしこのアクが釉薬の表情にもなるので、水簸をどこで止めるか、塩梅が難しいのです。 blog in haiyu 14 沈殿した灰を、徐々に細かいフルイを通してさらに沈殿させ、石膏の鉢に移して水分を抜きます。 blog in haiyu 12 次は布袋に入れて吊るし、さらに水抜き。 blog in haiyu 23 その後は天日で干してサラサラになるまで乾かします。 完全に乾くまでには、晴天が続いても何日も掛かります。 blog in haiyu 30 ここまできてようやく、釉薬の原料となるのです。 水簸して乾かすと僅かになってしまうその灰は、草木の生命のエッセンスだと実感します。 blog in haiyu 22 長石や粘土などの土石と調合し、ポットミルで摺り上げます。 blog in haiyu 27 blog in haiyu 09 灰それぞれの個性を活かし、美しい釉調を得るために焼成試験を繰り返し、調合を微調整しながら釉薬にしていきます。 blog in haiyu 35 blog in haiyu 33 草木の持つ力をガラスに閉じ込めたような灰釉。 灰釉の色合いは何げない日々の料理が映え、花々などをやさしく受け止めてくれます。素朴ながら飽きのこない釉薬です。 藁灰釉の鉢 草來舎の代表的な灰釉「林檎灰釉」「藁灰釉」「松灰釉」について以下で紹介致します。

●林檎灰釉

私達の工房がある泰阜村は信州の南端にあり、林檎栽培の南限です。 草來舎では、この信州特産の林檎の木の灰から、釉薬を仕立てています。 発色は、赤い実からは想像もできない青い色。 blog in haiyu 34 毎年春先に近隣の農家さんから、剪定した枝や、品種替えで伐った古木などを頂き、夏の間に乾燥させ、冬になるとストーブで燃やして灰をためます。 blog in haiyu 21 林檎の木はゆっくりと燃え煤も出ず、燃やすとほのかに甘い香りもして、ストーブの薪として最適です。 ひと冬燃やした灰の量は一斗缶に4杯ほど、青白く美しい灰です。 この灰を水簸するのが春一番の仕事。 blog in haiyu 28 そしてこの仕事は、長く寒い冬が終わったなぁとホッとする時でもあり、農家さんへの感謝を改めて感じる時でもあります。 blog in haiyu 15 乾燥が済んだ灰は手に取るととっても軽やか。 右が林檎の木灰。左が赤松の灰です。 同じ灰でもこんなに色が違います。これが木の種類によって釉薬の色が違う所以。

灰の水簸が終わる頃、林檎の花が咲き始める頃に、来年用の林檎薪を頂きます。 blog in haiyu 13 blog in haiyu 17 blog in haiyu 32 そしてまた次の春に、ためておいた灰を水簸して釉薬の原料とします。 毎年の変わらぬ営みですが、その中に喜びや感謝があり、季節が巡る限り繋がっていく、林檎灰釉作りです。

※草來舎の林檎灰釉の作品ページはコチラ

●藁灰釉

草來舎の藁灰釉は、仲間が作っている田んぼの藁を使っています。 blog in haiyu 08 泰阜村は急峻な土地なので大きな田んぼが少なく、大型機械も入りません。 今でも手植えや、天日干しで米作りが行われている田んぼもあります。 blog in haiyu 11 村のあちこち、代々ずっと作り続けられてきた田んぼに水が張られ、田植えがされると、今年もまた夏が来るなと実感します。

秋が過ぎ、稲刈りと脱穀が終わると、藁灰釉作りの季節。 blog in haiyu 18 お米だけでなく藁や籾殻も、農家にとってたくさんの使い道がある大切なものでした。 焼き物屋にとっても藁や籾はかけがえのないもの。

かつて、日本国中の各地に、小さいながらも多くの窯業地があり、その土地の陶土に、その土地で取れた草木の灰から作られた釉薬を掛け、その土地の薪で焼き物が焼かれていました。

その多くの土地で、必ずといっていいほど使われてきた釉薬があります。 それが藁灰釉です。 藁灰釉の皿 藁はイネ科の植物でケイ酸が多く含まれています。 藁灰を多く配合して釉薬を仕立てると、ぽってりと白く白濁します。 厚みを持ち、釉薬としても強固で、日常の使用に耐える丈夫な器になります。 白く優しい色合いには、派手さはありませんが、しっとりとした美しさがあります。

初冬、脱穀が終わった藁を、時間を掛けてじっくり黒い灰に焼きます。 ゆっくり焼くことで釉薬に仕立てる時、他の原料との融け合いが良くなり、焼いた時の色合いも良くなります。 blog in haiyu 10 blog in haiyu 20 藁の灰はケイ酸で組織がしっかりしているため、他の灰釉より長時間ポットミルで擂ります。 この擂り加減でも発色や色の出方が異なってきます。

白といってもニュアンス豊かな藁灰釉。 料理をそっと控えめに引き立ててくれます。 blog in haiyu 06 日本全国で長い間作り続けられてきた釉薬だけに、特に和食との相性は抜群です。 blog in haiyu 07 ※草來舎の藁灰釉の作品ページはコチラ

●松灰釉

一度の登り窯の窯焚きで使う赤松薪の量は、約600束。 blog in haiyu 02 blog in haiyu 01 そんなに燃やしても、窯の中に残る灰の量はわずか。1300度近くで焼き切った松灰は、焼き物屋にとって、この上なく貴いものです。 blog in haiyu 24 窯焚きのあと掃き集めた松灰を釉に仕立てるために、まずは水簸。 松灰の水簸 濃い茶色の灰は赤松ならではのもの。 松灰 赤松は多くの鉄分を含んでいて、地元の長石という石の粉とわずかな藁灰を合わせただけで、渋いながら深みのある緑色の釉薬になります。

窯の中が酸素が多ければ黄みがかった色合い、還元であれば緑色。 blog in haiyu 04 blog in haiyu 03 薪のくべ方ひとつで同じ釉薬でもこれだけ発色が変わってきます。 この緑色は赤松由来の鉄分によるもの、ビードロと呼ばれ、古来から日本人に愛されてきた釉薬です。

料理を盛り込むと、素材の色が活きる色合いだなと感じます。

※草來舎の松灰釉の作品ページはコチラ

その他にも楢灰から仕立てる釉薬は、土の色をそのまま見せる透明になり、その楢灰釉をベースにして、鉄を加えて黒釉や飴釉に、呉須を加えて瑠璃釉などの色釉も作っています。

※色釉の作品ページはコチラ

灰釉ではなく長石のみで釉薬とする長石釉も。 いわゆる志野焼と同じものですが、かなり高温でないと融けません。 登り窯の火の強いところで焼き込むと、美しい緋色を発色します。

※長石釉の作品ページはコチラ

また、登り窯の中で薪の灰が器に降り掛かり、自然と釉薬状になる「自然釉」も草來舎作品の特徴のひとつです。

※自然釉ができるまでの工程についてはコチラ、自然釉の作品ページはコチラをご覧ください。